医療費の現状
国民医療費は40兆円を超し、年々増加の一途をたどっています。それに伴い、公費の負担も多くなり、財政圧迫の要因になっています。そのため、医療費をどのように抑えるかが課題となり、「
健康日本21」などの運動や取り組みが行われるようになりました。
このような運動や取り組みは、課題を解決するための具体的かつ根拠のある方策(施策)でなければなりません。さらに、取りまとめた運動や取り組みといった方策は実行し、ある期間経過したら、どれくらい課題が解決できたかの評価を行い、問題のある所は問題解決のための方策をたて再度実行に移すことが必要になります。
これら一連の流れは、PDCAサイクルであり、重要課題解決には必要な流れです。今回は医療費削減という課題に対し、PDCAサイクルの最初のPの部分(計画立案)で必要な現状分析と、それを元にした課題解決の方向性策定について、「
e-Stat」のデータを使用して行います。
なお、医療費を含めた社会保障関連の課題解決は、主に国や自治体などの行政機関が行うことが多いので、今回の分析等も行政機関を意識して行います。
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現状分析
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現状分析を行うにあたっては、医療費削減が目的なので、「どのような病気が多いのか」を見つけ出し、その病気を減らすことが必要です。ただし、「お金のかかる病気」でなければなりません。これは全国で見るものと、地域で見るものが必要です。国政レベルで見る場合は、全国レベルが必要ですが、自治体レベルでは地域での分析が必要です。「お金がかかる」場面としては、一般的に入院しているとお金がかかり、入院外はそうではない場合が多いです。
また、加齢とともに病気になる確率も高くなるので、年齢構成別に「どの様な病気が多いのか」も調べる必要があります。さらに、過去から比べて増加している病気も問題です。
以上を考慮すると、以下の5点を取り入れた分析を行うことが必要です。
① 傷病別
② 入院・入院外別
③ 年次別
④ 年齢別
⑤ 地域別(県別など)
これら要素が含まれる医療費データがない場合は、医療費と関係の深い患者数などのデータを使用します。すでに「
2.オープンデータの活用(2)」で紹介した「傷病名・年齢階級を合わせた国民医療費の推移(平成14年~26年)」や「傷病名・年齢階級を合わせた患者数の推移(平成14年~26年)」で行った通り、各傷病とも年々医療費は増加傾向にあり、特に「循環器系の疾患」や「新生物」が多いことが分かっています。患者数でも「循環器系の疾患」が1位でした。(2位は「消化器系の疾患」)患者一人当たりの医療費では、圧倒的に「周産期に発生した病態」が多く、2位が「新生物」でした。しかし、これらは全国ベースのもので、県別などの地域に即したものではありません。
そこで、以下のような県別・傷病別の医療費を分析してみます。元となる統計は、国民医療費には県別の医療費はありますが、県別・傷病別の医療費はありませんので、患者調査の統計を使用します。患者調査は3年ごとの調査ですので、最新の平成29年の調査を用い地域特性を分析します。使用する統計表は、「
下巻第9表 推計患者数(患者住所地),入院-外来・県内-県外×傷病分類×都道府県別」です。統計表は、下図のように、最初は全国の合計で60行ごとに各県の疾病分類ごとの患者数(入院・外来別)が表示されています。
これでは分析し難いので、表側を疾病分類、表頭を各県(総数・入院・入院外)にしたものを作成します。(下図参照)
この表で全国を含む各県の疾病分類別の患者数の比較が行い易くなりました。しかし、このまま比較しても人口の影響を受けるため、正確な比較ができません。そこで、この患者数を人口で割ったもの(県民1000人あたりの患者数)で比較します。
最初に患者総数(総患者数・入院患者数・外来患者数)での比較を行います。(下図参照)
これらのグラフを見ると明らかに、患者数は西日本が多いです。原因はデータ不足のため不明ですが、自身の地域が全国平均と比較することは可能です。
なお、県別疾病別の医療費はありませんが、県別の医療費があります。その医療費との比較は可能ですので、以下に示します。ただし、最新のデータが平成28年で、今回の患者調査と1年のズレはありますが、傾向を見るには問題ないと思われます。
今回は入院で比較しますが、傾向は同じと言えます。
次に、疾病別の比較を行います。元のデータを用いて、疾病別・県民1000人当たりの総患者数・入院患者数・外来患者数のグラフを以下に示します。
疾病別の患者数で、上位5位(全国)の疾病を下表に示します。この内、医療費の高いものに色を付けてあります。黄色は上位2位です。これらの疾病は、患者数も多く医療費も多いので、何らかの対応が必要になります。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
総患者 |
XI 消化器系の疾患 |
IX 循環器系の疾患 |
XIII 筋骨格系及び結合組織の疾患 |
X 呼吸器系の疾患 |
XXI 健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用 |
外来 |
XI 消化器系の疾患 |
IX 循環器系の疾患 |
XIII 筋骨格系及び結合組織の疾患 |
XXI 健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用 |
X 呼吸器系の疾患 |
入院 |
XI 消化器系の疾患 |
IX 循環器系の疾患 |
II 新生物<腫瘍> |
XIX 損傷,中毒及びその他の外因の影響 |
VI 神経系の疾患 |
全国平均では、以上の結果になっていますが、各県では、少々違いがあります。この違いは、地域の特殊性による場合があります(例えば、「寒い地域で濃い味付けのものを多く取ることにより塩分摂取量が多くなり、血圧の高い人が多い」など)。この特殊性などの違いの原因を見極め、対策を考える必要があります。
また、今回は疾病の大分類で比較していますが、中分類や小分類での比較を行い、多く発症している疾病を突き止め、対策をたてることも必要です(使用しているデータでは、再掲として多く発生している疾病が掲載されています)。
今回は、「医療費の現状」についてどのようになっているかを見てみました。
第6回では医療費の将来予測について分析してみたいと思います。