根拠に基づく将来予測
オープンデータ活用講座

4.人口統計

人口統計の重要性

はじめに

現在、日本にはさまざまな問題があります。その中で、少子高齢化は特に重要な問題です。この少子高齢化が進行することにより、「医療費」や「介護費」が増加したり、「労働力人口」が減少し人手不足が深刻化したり、老々介護が増加するなど、深刻な社会問題が発生します。
この問題は、日本の人口構造の変化によるもので、これを根本的に変えるには、さまざまな少子化対策を積極的に行っていかなければなりません。少子化対策以外にも、直近で対応しなければならない社会問題は多数存在します。これらの問題は、全国均一で存在するのではなく、地域ごとに各問題の重要度が違ってきます。この違いも、地域の人口構造に依存してきます。
このように、人口構造の問題は、地域の社会問題とも密接に関係し、人口構造の変化を知ることが社会問題の対策をたてる上で重要になってきます。特に、将来の人口構造を知ることは、今後の対策をたてるためにも必要となります。
人口構造やその将来も含めた変化を知るためには、「人口統計」が必要です。「人口統計」は、すでに「人口統計学」として体系が確立されています。今回は、この中で特に重要な「人口推計」の仕組みと「人口推計モデル」について紹介します。

人口統計の使用例

「人口推計」の仕組みと「人口推計モデル」を紹介する前に、「人口統計」の有益な使い方について紹介します。前回「3.オープンデータの活用(3)」の「将来予測」でも紹介したように大型スーパーの出店には、その地域の将来も含めた人口構造が必要になります。
地方公共団体などでは、地域の施策を決定する際、地域の将来を含めた人口構造を知ることで、老人対策(老人施設の建設など)を行ったり、学校の統廃合計画を立てることが可能になります。
このように、「人口統計」の情報を直接使用することもあれば、他の情報と組み合わせて使用することもあります。
例えば、地域ごとの「医療費」の比較を行う場合を考えてみます。
A地域・B地域とも月5,000万円の医療費が計上されているとします。しかし、人口はA地域では10万人、B地域では5万人とすると、明らかにB地域の「医療費」が問題となります。このように1人当たりの値を求めるときには人口が必要になります。
これを応用した例を以下に示します。
この例では、e-Statの中から「平成28年度介護保険事業状況報告(年報)」の「<都道府県別>要介護(要支援)認定者数 男女計 - 総数 -」を利用して、都道府県別の「介護認定者数」を比較します。比較するにあたっては、報告されている「介護認定者数」を比較しても、人口の多い、少ないで変わってくるので、人口で割ったものを比較します。
e-Statからダウンロードしたデータは以下のようなもので、年齢階級別にシートが分かれています。

これを各県ごと、年齢階級別に整理します。北海道について整理したものを以下に示します。人口については、e-Statから「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」の「【総計】都道府県別年齢階級別人口」を使います。この統計では、5歳ごとの階級による人口なので、"40~64歳"および"90歳以上"については、該当する年齢階級の合計を使用します。

(北海道の年齢階級別・介護認定者数)
同様の方法で、鳥取県(人口の少ない県)の「年齢階級別・介護認定者数」を整理したものを以下に示します。

(鳥取県の年齢階級別・介護認定者数)
これらのデータを比較すると、「介護認定者数」は北海道が多いです。しかし、人口も多いため、単純に比較することはできません。この場合、人口構成に合わせた割合で比較します。方法としては、2つ考えられます。
一つは、各要介護度の平均(年齢人口による加重平均)を求め、それを全体人口で割り(千分率で求めると1,000人当たりの「介護認定者数」となる)比較する方法です。今回は表頭に「加重平均」と「千人当たり」で示しています。
もう一つは、各年齢階級に該当する介護度の認定者数をその年齢階級の人口で割り、比較する方法です。この方法で比較した表を以下に示します(計算結果は1000分率で表したため、1,000人当たりの「介護認定者数」になります)。

(北海道の年齢階級別・1,000人あたりの介護認定者数)

(鳥取県の年齢階級別・1,000人あたりの介護認定者数)
いずれの方法でも、「介護認定者数」の人口の割合から見ると、鳥取県の方が多いことが分かります。「年齢階級別・介護認定者数」と「年齢階級別・1,000人あたりの介護認定者数」については、以下にグラフ化して示します。
年齢階級別・介護認定者数


  
年齢階級別・1,000人あたりの介護認定者数


これらを比較すると、明らかに北海道では「要介護1」の割合が多いのに対し、鳥取県では「要介護2」の割合が多くなっています。この違いは、現状の情報だけでは分析できず、「RAWデータ」の分析や各県における制度運用の調査などが必要になります。


※利用データ:e-Stat
● 平成28年度介護保険事業状況報告(年報)
  04-1-1T <都道府県別>要介護(要支援)認定者数 男女計 - 総数 -

● 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査
  18-02 【総計】都道府県別年齢階級別人口


人口推計の仕組み

人口とは

「人口推計」の仕組みを紹介する前に、まず人口について考えてみます。人口とは、一般的には「一国または一定の地域に居住する人々の総数」と定義されます。この定義に従えば、日本の人口は「日本に住む人の総数」になります。しかし、生まれる人や死亡する人が存在するので、「ある時点での人口」としなければ、正確ではありません
日本では、この「ある時点での人口」を把握するために「国勢調査」が行われます。「国勢調査」は、1920年から1945年を除き、5年おきに実施されており、調査年の10月1日午前0時時点での人口を把握します(調査は"10年ごとに大規模調査"が行われ、その間の"5年目に当たる年には簡易調査"が行われます)。「国勢調査」で得られるような「人口統計」を、「人口静態統計」といいます
「国勢調査」は5年おきに行われ、調査を行った年の人口は把握可能ですが、それ以外の年の人口は把握できません。これを把握するためには、その間の人口の変動を把握する必要があります。この変動を調査するのが「人口動態調査」で、一定期間に起こる人口の変化に影響する事柄(出生数,死亡数,婚姻数,離婚数,死産数など)を調査します。「人口動態調査」で得られた結果(「人口動態統計」)と「人口静態統計」を組み合わせることにより、調査を行っていない年の人口も把握できます(「人口動態調査」以外に、「住民基本台帳人口」を使用する方法も存在します)。

人口方程式(人口学的方程式)

人口は、刻一刻と変動します。その変動は、人口の増加あるいは人口の減少として現れます。この変動の要因としては、出生と死亡があります。出生は増加の要因で、死亡は減少の要因です。結果として、出生数が死亡数を上回ると人口は増加し、死亡数の方が上回ると人口は減少します。このような人口の増減を「自然増加」といいます
人口の変動要因としては、出生と死亡以外に、人の移動によるものがあります。国レベルで捉えると、外国人の出入国があり、県や市の地域で捉えると、転出入があります。このような人口の増減を「社会増加」といい、転入を流入、転出を流出といいます。さらに、流入と流出を総称して「人口移動」といいます。
このように、ある地域における、ある期間の人口の変動を式で表すと、
増加人口=(出生-死亡)+(流入-流出)=自然増加+社会増加
となります。この関係式が人口方程式(あるいは人口学的方程式)とよばれ、「人口推計」や「人口成長」などの分析を行うときの重要な考え方になります。

将来人口推計

人口は、人口が確定している時点から、知ろうとしている時点までの「自然増加」と「社会増加」が分かれば、把握することが可能です。ところが、「自然増加」や「社会増加」のデータのない将来の人口については、同じ方法では把握できません。
しかし、将来の人口について把握できれば、今後どのようなことを行わなければならないのかを知ることができます。これは、国や地方公共団体の施策にかかわるだけではなく、民間であれば出店計画や雇用計画などにも影響する重要事項です。
このように「将来人口推計」は重要事項なので、正確なデータを用いた客観的な方法で推計する必要があります。現在行われている「将来人口推計」では、客観性を確保するため、過去から現在に至る人口学的データの傾向や趨勢を元にして将来の人口を推計します。

具体的には以下の3つの方法があります。

① 近似関数法

過去の人口趨勢から最適な推定式(関数)を定め、将来を推計する方法です。推定式としては、1次関数・対数関数・多項式・累乗の式・指数関数・ロジスティック曲線などがあり、Excelを利用すると簡単に求めることが可能です。
近似関数法の場合、期間が長くなると問題が生じる場合があるため、注意が必要です

② コーホート変化率法

「コーホート」とは、共通した因子を持った観察対象となる集団のことで、人口学においては同年(または同期間)に出生した集団を意味します。「コーホート変化率法」では、各コーホートに対して過去における実績人口から変化率を求め、将来人口を推計します。コーホート間での変化率に着目する点が、近似関数法と本質的に異なります。
「人口動態統計」が不備な小地域の人口推計や、過去および将来特殊な人口移動が想定されない近未来の人口推計で使用されています。

③ コーホート要因法

「コーホート要因法」では、各コーホートそれぞれに人口変動要因である自然増加(出生・死亡)と社会増加(流出入)の将来値を仮定し、将来人口を推計します。「コーホート変化率法」が実績人口から推計するのに対し、人口変動要因の将来値を仮定し推計する点が異なります。
具体的には、推計の出発点となる年(t年とする)の男女別年齢別人口(基準人口)のうち、n歳の男女別年齢別人口が死亡率(生存率)による減少と流出入による社会増加により、翌年(t+1年)にはn+1歳の男女別年齢別人口になります。n歳には0歳も含まれるので、今行った推計では、t+1年の1歳以上の推計人口になり0歳は含まれません。
0歳人口については、t年の15~49歳の女子人口から年齢別出生率に従って出生児数を推計し(0歳人口)、さらに出生性比により男女に分け、0歳の男女別人口が推計できます。この男女別人口に、0歳の死亡率(生存率)と流出入による社会増加を加味し、t+1年の0歳の男女別人口が推計できます。
以上でt+1年の男女別年齢別人口が推計できたので、同じ方法でt+2年の男女別年齢別人口が推計できます。以降、同様な計算を推計期間分行うと推計は完成します。
この推計では、出生率・死亡率(生存率)・出生性比・流出入に関する値(人口移動率等)について将来の仮定値を設定する必要があります。この値は客観的で正確なデータに基づいたものである必要があります。詳細な人口統計が得られる場合には、これらの仮定値を過去のデータを元にして設定することが可能になります。
このように、詳細な人口統計が得られる場合には、「コーホート要因法」が最も信頼できる将来人口推計方法として評価されています。このため、国などが行う将来人口推計の標準的な方法となっており、世界各国の推計はほぼこの方法を採用しています。
この方法を図示すると、下図になります。この中で、死亡(生存率:出生児を含む)・出生率・出生性比・人口移動は、仮定値で過去から現在に至る傾向や趨勢を分析し、仮説を立て計算されたものです。


将来人口推計ツール

日本では、「国立社会保障・人口問題研究所」が「コーホート要因法」を用い日本全体および各都道府県・市区町村の「将来人口推計」を行っています。推計結果は、「国立社会保障・人口問題研究所」のホームページ(http://www.ipss.go.jp/)に掲載されており、データとしてダウンロードも可能です。
また、このデータを用い、都道府県市区町村別の将来人口をグラフとして提供する「人口データ」のホームページ(https://www.jinkoudata.com/)もあります。
「国立社会保障・人口問題研究所」以外にも、独自に人口推計を行っている都道府県などもあります。埼玉県は県下の市町村の将来人口推計を行うツール(Excelファイル)を用意しています(https://www.pref.saitama.lg.jp/a0206/toukei-tool/jinko-tool.htmlを参照)。
これ以外にも、小地域の将来人口推計を行うツールとして「一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会 G空間情報センター」が提供しているものがあります。これを利用すると町内の推計も可能です(https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/cohortを参照)。尚、利用にあたっては、ユーザ登録が必要です(ユーザ登録は無料)。
このようなデータやツールを使用することにより、地域の各種将来推計を求めることができ、将来に向けた施策をたてることが可能になります。


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5.社会保障
未来を作る意思決定に。新世代統計集計システム【Z-Adam】