人口推計の仕組み
人口とは
「人口推計」の仕組みを紹介する前に、まず人口について考えてみます。
人口とは、一般的には「一国または一定の地域に居住する人々の総数」と定義されます。この定義に従えば、日本の人口は「日本に住む人の総数」になります。しかし、
生まれる人や死亡する人が存在するので、「ある時点での人口」としなければ、正確ではありません。
日本では、この
「ある時点での人口」を把握するために「国勢調査」が行われます。「国勢調査」は、1920年から1945年を除き、5年おきに実施されており、調査年の10月1日午前0時時点での人口を把握します(調査は"10年ごとに大規模調査"が行われ、その間の"5年目に当たる年には簡易調査"が行われます)。
「国勢調査」で得られるような「人口統計」を、「人口静態統計」といいます。
「国勢調査」は5年おきに行われ、調査を行った年の人口は把握可能ですが、それ以外の年の人口は把握できません。これを把握するためには、その間の人口の変動を把握する必要があります。この
変動を調査するのが「人口動態調査」で、一定期間に起こる人口の変化に影響する事柄(出生数,死亡数,婚姻数,離婚数,死産数など)を調査します。
「人口動態調査」で得られた結果(「人口動態統計」)と「人口静態統計」を組み合わせることにより、調査を行っていない年の人口も把握できます(「人口動態調査」以外に、「住民基本台帳人口」を使用する方法も存在します)。
人口方程式(人口学的方程式)
人口は、刻一刻と変動します。その変動は、人口の増加あるいは人口の減少として現れます。この変動の要因としては、出生と死亡があります。出生は増加の要因で、死亡は減少の要因です。結果として、
出生数が死亡数を上回ると人口は増加し、死亡数の方が上回ると人口は減少します。このような人口の増減を「自然増加」といいます。
人口の変動要因としては、出生と死亡以外に、人の移動によるものがあります。国レベルで捉えると、外国人の出入国があり、県や市の地域で捉えると、転出入があります。このような
人口の増減を「社会増加」といい、転入を流入、転出を流出といいます。さらに、
流入と流出を総称して「人口移動」といいます。
このように、ある地域における、ある期間の人口の変動を式で表すと、
増加人口=(出生-死亡)+(流入-流出)=自然増加+社会増加
となります。この関係式が
人口方程式(あるいは人口学的方程式)とよばれ、「人口推計」や「人口成長」などの分析を行うときの重要な考え方になります。
将来人口推計
人口は、人口が確定している時点から、知ろうとしている時点までの「自然増加」と「社会増加」が分かれば、把握することが可能です。ところが、「自然増加」や「社会増加」のデータのない将来の人口については、同じ方法では把握できません。
しかし、将来の人口について把握できれば、今後どのようなことを行わなければならないのかを知ることができます。これは、国や地方公共団体の施策にかかわるだけではなく、民間であれば出店計画や雇用計画などにも影響する重要事項です。
このように「将来人口推計」は重要事項なので、正確なデータを用いた客観的な方法で推計する必要があります。現在行われている
「将来人口推計」では、客観性を確保するため、過去から現在に至る人口学的データの傾向や趨勢を元にして将来の人口を推計します。
具体的には以下の3つの方法があります。
① 近似関数法
過去の人口趨勢から最適な推定式(関数)を定め、将来を推計する方法です。推定式としては、1次関数・対数関数・多項式・累乗の式・指数関数・ロジスティック曲線などがあり、Excelを利用すると簡単に求めることが可能です。
※
近似関数法の場合、期間が長くなると問題が生じる場合があるため、注意が必要です。
② コーホート変化率法
「コーホート」とは、
共通した因子を持った観察対象となる集団のことで、人口学においては同年(または同期間)に出生した集団を意味します。「コーホート変化率法」では、各コーホートに対して、
過去における実績人口から変化率を求め、将来人口を推計します。コーホート間での変化率に着目する点が、近似関数法と本質的に異なります。
「人口動態統計」が不備な小地域の人口推計や、過去および将来特殊な人口移動が想定されない近未来の人口推計で使用されています。
③ コーホート要因法
「コーホート要因法」では、
各コーホートそれぞれに人口変動要因である自然増加(出生・死亡)と社会増加(流出入)の将来値を仮定し、将来人口を推計します。「コーホート変化率法」が実績人口から推計するのに対し、
人口変動要因の将来値を仮定し推計する点が異なります。
具体的には、推計の出発点となる年(t年とする)の男女別年齢別人口(基準人口)のうち、n歳の男女別年齢別人口が死亡率(生存率)による減少と流出入による社会増加により、翌年(t+1年)にはn+1歳の男女別年齢別人口になります。n歳には0歳も含まれるので、今行った推計では、t+1年の1歳以上の推計人口になり0歳は含まれません。
0歳人口については、t年の15~49歳の女子人口から年齢別出生率に従って出生児数を推計し(0歳人口)、さらに出生性比により男女に分け、0歳の男女別人口が推計できます。この男女別人口に、0歳の死亡率(生存率)と流出入による社会増加を加味し、t+1年の0歳の男女別人口が推計できます。
以上でt+1年の男女別年齢別人口が推計できたので、同じ方法でt+2年の男女別年齢別人口が推計できます。以降、同様な計算を推計期間分行うと推計は完成します。
この推計では、出生率・死亡率(生存率)・出生性比・流出入に関する値(人口移動率等)について将来の仮定値を設定する必要があります。この値は客観的で正確なデータに基づいたものである必要があります。詳細な人口統計が得られる場合には、これらの仮定値を過去のデータを元にして設定することが可能になります。
このように、詳細な人口統計が得られる場合には、
「コーホート要因法」が最も信頼できる将来人口推計方法として評価されています。このため、
国などが行う将来人口推計の標準的な方法となっており、
世界各国の推計はほぼこの方法を採用しています。
この方法を図示すると、下図になります。この中で、死亡(生存率:出生児を含む)・出生率・出生性比・人口移動は、仮定値で過去から現在に至る傾向や趨勢を分析し、仮説を立て計算されたものです。