オープンデータの限界
前節で説明したように、オープンデータの活用には注意を払う必要があります。
たとえば、「近年増加している医療費」について考えてみましょう。「増加の原因はどこにあり、我々の地域では将来どれくらいの額になるのか」というテーマを設定し、オープンデータを使用すると、
どこまで分析できるのかを検証してみます。
このテーマについては、全体的に増加している医療費のうち、「どのような病気の医療費が増加しているのか」・「どのような病気の患者が増えているのか」・「どの年代が病気にかかりやすいか」などを分析し、医療費増加に影響を与えている病気を特定し、その病気の予防策を策定する必要があります。
「国民医療費」と「患者調査」を使った分析
これらの分析をオープンデータで行うためには、e-Statの「社会保障・衛生」分野の「国民医療費」と「患者調査」のデータを使用するのが適当です。
今回は、この中でも「傷病別・年齢階級別・年次別」のデータを使用します。
(「国民医療費」の13表「医科診療医療費,入院-入院外・年齢階級・傷病分類・年次別」と「患者調査」の上巻にある「総患者数,性・年齢階級×傷病分類別」のそれぞれ平成14年・17年・20年・23年・26年のデータを使用:下図参照)
図1 傷病分類別年齢階級別医科診療医療費
図2 傷病分類別年齢階級別総患者数
この2表を年次別に比較します。比較するにあたって、傷病名や年齢階級(表頭・表側)を同一にする必要があります。
傷病名については、ローマ数字で表記されている部分(大分類)は同一ですが、再掲の部分で違う箇所があります。
また、年齢階級については、「国民医療費」では大きく分類されており、「患者調査」では、ほぼ5歳刻みになっています。
これらを同一にするためには、傷病名で「国民医療費」・「患者調査」ともにないものを削除します。また、年齢階級は大きいものを細かく分解できないので、大きいもの(「国民医療費」)に合わせます。合わせるにあたっては、「患者調査」の各階級を、対応する「国民医療費」の階級で加算しなければなりません。
これを分析する年度ごとに行うと分析データは完成します。
分析する年度については、「国民医療費」は毎年調査が行われ、「患者調査」は3年おきに調査が行われるため、「患者調査」に合わせる必要があります。
5回分の調査を分析対象とすると、直近の患者調査は平成26年なので、対象データは次の年になります。
対象データ:平成14年・17年・20年・23年・26年
これらを加味した表が、下図になります。
図3 傷病名・年齢階級を合わせた国民医療費の推移(平成14年~26年)
図4 傷病名・年齢階級を合わせた患者数の推移(平成14年~26年)
これらの表から、医療費や患者数の多い傷病を特定したいと思います。このために、年度ごとの変化がわかる折れ線グラフで傷病ごとの医療費と患者数を表示します。
(すべての年齢の合計で表示します)
図5 傷病名・年齢階級を合わせた国民医療費の推移(平成14年~26年)をグラフ化
医療費については、「循環器系の疾患(090)」と「新生物(020)」が多く、特に「新生物(020)」は確実に増加していることがわかります。
図6 傷病名・年齢階級を合わせた患者数の推移(平成14年~26年)をグラフ化
患者数については、「循環器系の疾患(090)」と「消化器系の疾患(110)」が多いのがわかります。医療費で高額だった「新生物(020)」は、患者数は増加していますが、それほど多くありません。患者一人当たりの医療費が高額だと思われます。
患者一人当たりの医療費は、傷病ごとに医療費を患者数で割ると求められます。
(図3の各セルを図4の対応するセルで割ります)
求められたものをグラフ化すると下図のようになります。
図7 患者一人当たりの医療費をグラフ化
「新生物(020)」は高額なのは予想できますが、「周産期に発生した病態(160)」はそれ以上に高額で、急増の度合いが高いことがわかります(「周産期に発生した病態(160)」は、医療費全体の割合からは小さいが、病院や患者にとっては課題となる可能性があります)。
「限界」を作っている要因
以上のことから、高額な医療費を必要とする傷病や患者数の多い傷病が特定できます。
しかし、
何歳くらいから多くなるのかについては、65歳以上ということは分析できても、それ以上はできません。これは、分析データとして使用した「国民医療費」の
年齢階級が細かく分かれていないからです。
また、
過去10年間の変化を調べたいということに対しても、患者調査が3年ごとに行われるため、患者数についてはできません。この他、
都道府県別のデータがないため同様な分析を行うこともできません。
「e-Stat」などのオープンデータは、このようにできないこともありますが、国の傾向を示しているものなので、国と各自治体との比較により有意義な結論を見出す可能性があります。
たとえば、都道府県独自で傷病別の医療費や患者数の調査を行い、その結果と「e-Stat」のデータを比較して違いを見出し、その原因を調査することにより医療費削減を実現できる可能性があります。